2024年6月14日(金)
堀邊 英夫
大阪公立大学
〒558-8585
大阪市住吉区杉本3-3-138
06-6605-2981(直通)
発起人 松村英樹* |
第1回の「Cat-CVD研究会」を、大阪市立大学の中山 弘先生のお勧めもあり、私どもが発起人となって2004年に金沢で開催してから21年、今年は、堀邊英夫先生を始めとする大阪公立大学の方々の御尽力により、21回目の研究会が開催されることになりました。
低温で高品質な薄膜を作る方法としては、原料ガス分子をプラズマ中の電子との物理的衝突により分解する、いわゆる、プラズマ支援化学気相堆積 (PECVD=Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)法が広く知られています。しかし、この方法は、例えば、基板や作られる膜がプラズマ損傷を受けること、使用する原料ガスの利用効率 がせいぜい10%前後と低いこと、などの問題も抱えていました。これに対し、Cat-CVD法は、原料ガス分子の分解に、ガス分子と加熱触媒体との接触分 解反応(catalytic cracking reaction)を用いるという、全く新しい原理を導入した薄膜堆積法です。ガス分子の分解にプラズマを使用しませんので、当然、プラズマ損傷は心配い りません。また、PECVD法では原料ガス分子と電子の衝突、いわば、3次元空間での「点」と「点」の衝突を用いるのに対し、Cat-CVD法では、ガス 分子と触媒体表面の接触、いわば、「点」と「面」の衝突を用いているため、原料ガスの分解効率、すなわち、原料ガスの利用効率が飛躍的に向上する長所も生 まれます。実際、1.5 mサイズの大型堆積装置を用いてある装置メーカーが行った、アモルファス・シリコン(a-Si)を堆積する実験によれば、同じa-Si膜の堆積速度を得る ために、Cat-CVD法ではPECVD法の約1/10のシラン(SiH4)使用量で済むとの話もあります。
このように、長所が多い方法ですので、Cat-CVD法には大きな期待も寄せられ、種々の実用化の検討も進んでいます。薄膜堆積は、製品を作る工 程の一プロセスに過ぎませんので、どのメーカーもCat-CVD法の使用を積極的には公表しませんが、すでに、多くの製品製造に使われている模様です。
しかし、Cat-CVD法にも検討課題は沢山あります。まず、触媒体表面は絶えず原料ガスに曝されますので、その表面が徐々に変性する問題があり ます。教科書的に言えば、触媒とは、化学反応を円滑に進めるが自らは変化しないものであるはずですが、触媒を用いた化学製品の製造において、変性しない触 媒など実際には存在せず、ある使用時間ごとに特別な処理によりその再活性化を図っています。Cat-CVD法においても、大量生産に成功した分野では、こ の問題の解決がキーになりました。また、Cat-CVD法では、原料ガスの種類と触媒体材料の組み合わせが、希望する膜を高い資源利用効率で作製するため に重要ですが、その組み合わせの検討も、この方法をさらに一層広い範囲の製膜に適用するために、今後詰めていくべき課題です。例えば、米国のマサチューセッツ工科大学などでは、このCat-CVD法を用いて高機能な有機薄膜の合成に成功していますが、その場合は、ニッケルを含有する金属を触媒体に使用することがキーとなっています。
Cat-CVD法は、私どもが開発を始めてから25年以上の時間が経過した技術ですが、まだまだ技術の全ての可能性が見渡されている訳ではありま せん。上述の有機膜の合成など、日本では研究者がほとんどおらず手薄な分野ですが、今後、革命的な製品を生むことに繋がる可能性も秘めています。また、膜 堆積ではないですが、各種ガスを接触分解して得られるラジカルを用いる固体表面改質、不純物低温ドーピングなど、基礎と応用の両方から大きな展開の可能性 のある分野も拡がっています。
本研究会は、そのような未来の可能性を、幅広い多くの人の議論の中から探っていくために始められたものです。この研究会は、2004年の第1回の 開催地、金沢市をはじめ、第2回大阪市、第3回北九州市、第4回長岡市、第5回厚木市、第6回金沢市、第7回浜松市、第8回金沢市、第9回習志野市、第10回岐阜市、第11回仙台市、第12回名古屋市、第13回北見市、第14回高松市、第15回北九州市、 第16回姫路市、第17回は、COVID-19蔓延防止のためにオンライン開催、また第18回は、北陸先端科学技術大学院大学にてハイブリッド開催、第19回は産総研九州センター(対面開催)、第20回北九州市(対面開催)となりました。東京に本部を置く学会主催の研究会と異なり、東京地区をほとんど開催場所としない研究会としての特徴もあります。それは、各地域で研究会を開くことで、Cat-CVD法という新しい技術を、東京で開かれる研究会に出張してまで参加する機会のない、その地域の地場産業にいる技術者にも知ってもらう機会を作り、この新技術を用いた新しい物作りを一緒に考える場を提供するという目論見もあったからです。例えば、北九州市で開かれた時には、元々北九州が製鉄関連の業界で働く技術者が多いこともあり、金属製品の表面改質にCat-CVD法を使うという新しい試みも披露されました。その地域 に足を運ばなければ思い付かないCat-CVD法の新しい応用、新しい展開のアイデアを、このように全国行脚をすることで獲得していくことも、この研究会 の大きな特徴です。この研究会を通じて、日本の新技術研究開発体制に新しい手法を導入し、日本の全地域から新技術創生、大袈裟に言えば新産業創生、の元気な声を上げていきたいとの大きな期待があります。
この研究会の活動を通じて、大学研究者、公共研究機関研究者、企業研究者はもとより、日本全国津々浦々の多くの技術者の参加により、Cat-CVD技術の一層の発展の道を見出すことに繋がれば、と心から祈念を致しております。
2024年2月
* 北陸先端科学技術大学院大学 名誉教授
主催
Cat-CVD研究会
共催
(公社)化学工学会 CVD反応分科会
協賛
(公社) 高分子学会
(一社) 電気学会
(公社) 日本表面真空学会
(公社) 応用物理学会
※ (一社):一般社団法人、(公社):公益社団法人、(公財):公益財団法人
協賛企業(申込順)
・気相成長株式会社
・株式会社エイエルエステクノロジー
・テクノリサーチ株式会社
・株式会社ExtenD
・コミヤマエレクトロン株式会社
実行委員長 | |
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堀邊 英夫 | 大阪公立大学 |
実行委員 | |
和泉 亮 | 九州工業大学 |
伊藤 貴司 | 岐阜大学 |
梅本 宏信 | 静岡大学 |
太田 淳 | 株式会社アルバック |
大平 圭介 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
大曲 新矢 | 産総研 九州センター |
奥 友希 | 三菱電機株式会社 |
柏木 勇作 | 東京エレクトロン株式会社 |
熊野 勝文 | 東北大学 |
近藤 英一 | 山梨大学 |
近藤 道雄 | 産業技術総合研究所 |
佐藤 勝 | 北見工業大学 |
清水 耕作 | 日本大学 |
霜垣 幸浩 | 東京大学 |
武山 眞弓 | 北見工業大学 |
田中 秀治 | 東北大学 |
田畑 彰守 | 名古屋大学大学院 |
寺川 朗 | パナソニック株式会社 |
中山 弘 | 大阪公立大学&株式会社マテリアルデザインファクトリー |
西山 岩男 | 九州工業大学 |
部家 彰 | 兵庫県立大学 |
増田 淳 | 新潟大学 |
町田 英明 | 気相成長株式会社 |
松村 英樹 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
山本 雅史 | 香川高等専門学校 |
顧問委員 | |
越 光男 | 東京大学&宇宙航空研究開発機構 |
小長井 誠 | 東京都市大学 |
野々村 修一 | 岐阜大学 |
安井 寛治 | 長岡技術科学大学 |
プログラム委員 | |
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堀邊 英夫 | 大阪公立大学 |
現地実行委員 | |
山本 雅史 | 香川高等専門学校 |